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 もっと「クリプトスポリジウム」のことを知りたい!!

寄生虫感染を防ぐ可能性はまだまだ存在しますが…。

なかなか熱心な学生さんのようで、クリプトスポリジウムにとても興味があるようです。もっとも、発見されたのも20世紀に入ってからのことで、病原性があると知られるようになったのも1970年台に入ってからのことですから、教科書はもちろん、学物書にも論文にも十分に取り上げられていません。

というのも、下水道が98〜99%も普及した現在の日本では、接する機会があまりに少ないのです。逆に、医師や学者も今のような衛生的な時代で寄生虫もあったものじゃないだろう、というのが理由です。また、寄生虫を調べることは、必然的に糞便…つまり「ウンコ」を調べるのですから、学生の間で人気になるハズはありません。

しかし、日本での発見例の少ない、というか見逃されがちなクリプトスポリジウムは、当然の事世界中に存在します。しかも、ヒトには限らずウシやトリからも発見されていて、10種類以上の種が確認されていて、ひとつの「属」とされています。つまり、条件があえば感染出来てしまうのですから、家畜からヒトに感染することだってあります。すると、何が怖いかといえば、人畜(人獣)共通感染症でもあるので、手洗いが良ければ大丈夫か?と言えば、残念ながら、最近の日本人は生肉を好む傾向にあり、ステーキも「ミディアムレア」でと言うのですから、前回に書いたように、頑丈なオーシストと呼ばれる殻で守られているのですから、食べ物からも感染する可能性もあります。

実は、このクリプトスポリジウムは、脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)のほぼ全てから確認されていて、どの種が人間に寄生することが可能か?までは完全に解明されていません。つまり、どの種類の脊椎動物でも、生食すれば感染する可能性がある、と、とても恐ろしい話になってしまいますが、実はクリプトスポリジウムに限って言えば、塩水と淡水の両方で生存が出来る種類は存在しないので、どうぞ回転寿司でたらふく食べて下さいませ(但し、酢で〆ていない鯖や、旬を外れたイワシ・アジ・サンマ・サーモンなどの生食は、別の寄生虫が怖いですが…)。

ところで、クリプトスポリジウムは、前回水系感染とはっきり言い放ちましたが、水様の下痢では1日に10億ものオーシストが排泄される、ということは「糞便感染」でもある、と覚えておいてください。しかも、脊椎動物にもれなく…とゆうことは、家畜(ペットは「家畜」に分類されます)からヒトにも感染します。もちろん、その逆もありえます。

あまりに怖い存在だと思われてしまいそうなので、話を脱線させて妊婦と乳児の場合の話を追加しておきます。まず、クリプトスポリジウムは胎盤を通過出来ないので、母体から胎児には移行しません(逆に、短期的な免疫は移行するので、母親に既往歴があればそう怖がらなくてもいいです)。つまり、出産時の出血などからの感染(垂直感染)があったとしても、一時免疫である程度はしのげます。また、母乳感染もあり得ない(乳腺を透過できない)ので、その点はご安心下さいませ。

ところで、そろそろおかしいな?と気づく方も出てくるでしょうが、前回と今回を併せて考えると「そんなに感染力があるのなら世界中でもっと大騒ぎになるハズだが?」と言うことになりますが、騒動が起こっている国はほぼ全てが先進国でかつ、ピンスポットなのです。しかも、4割が症状が出ないというのも不思議な話です。実は、下水道のインフラが少ない国では、抗体で免疫が成立しているので既に「常在菌」と同じ扱いになってしまっているのです。そのような状況では、クリプトスポリジウム症は発生しません。また、4割の非発症者は既にクリプトスポリジウムに感染された経験があるか、類似した原虫に感染されていたことがあるので、もはや「感染されないヒト」になったか、感染されても症状の出ない「不顕性感染」になっているかのどちらかです。

要は、先進国でかつ下水道完備で衛生的な環境で生活してきたヒトは、初回感染、もしくは免疫不全でクリプトスポリジウム症を発症してしまうのです。これで、学生さんの答えが導き出せるだけの材料として十分でしょう。

 

さて、肝心な問題…「水系感染だから温泉銭湯は感染源になりうる」という誤解を解いていかないといけませんね。

通常の寄生虫は、湯温や消毒薬で死滅もしくは不活性化します。ところが、クリプトスポリジウムは死滅しません。故にろ過装置をしっかりと…というのは、レジオネラ対策には理想的ですが、クリプトスポリジウム対策にはそこまでする必要がありません。

通常の原虫は、動物の腸内に達しないと活動を始めません。ところが、クリプトスポリジウムは、適度な温度があれば、オーシストという殻から出て「スポロシスト」というバナナ型の活動状態型になってしまうのです。当然、活動するためには栄養を摂取しなければ、すぐに不活性化してしまうか死滅するかのどちらかしかありません。ヒトの場合は、種類によって寄生される部位が違いますが、胃〜大腸(厳密に言えば上行結腸)までとかなり幅広いのです。それが、湯温で殻から出てしまって湯船を漂っていれば、活動するだけの栄養を得られないどころか、無防備な状態で過酷な状態に晒されてしまっているのですから、ヒトの消化管に感染しようにもその前に息絶えてしまうのは容易に想像がつきます。

上述の理由で、レジオネラは浴場では大問題になりますが、クリプトスポリジウムが問題視されるようなことは、まずありません。そのかわり、冷鉱泉の場合で水風呂を設置する場合は、水質検査はもちろんのこと、循環させるような方法ではなく「源泉かけ流し」が基本になる訳です。

水風呂に入ったのであれば、手洗いを徹底してから飲食をすることが有為な予防になりますが、加温している浴槽のみであれば、そこまで神経質になる必要はありません。まさか、浴槽のお湯を好き好んでそのまま飲むなんてことはないでしょうから。

 

とはいえ、世の中にはどんな「万が一」が存在するか判りません。そこで、有効な消毒・滅菌方法を少し考えてみましょう。

まず、一番ヒトに無害な方法を選ぶのであれば「紫外線照射」になりますが…ちょっと濁ったり原虫が固まって存在している場合は、紫外線の当たらない部分は、どうやっても十分な消毒・滅菌にはなりません。それが黒湯であるのなら、消毒・滅菌には何の意味もなしません。水深2cmで見えなくなるような著しい黒湯ならば、一体どう紫外線照射をするのやら??になります。ということで、この手段は使えません。

次に考えるのは、過剰な塩素投与になりますが…、言うまでもなく皮膚を侵すどころか、漂白作用で黒湯が黒くなくなってしまいますので、到底使える手段ではありません(水泳用のプールで実施した例は存在する)。

では、ちょっと単価が上がってしまいますが…抗菌剤(抗生物質を含む)を投入するのはどうか?と考えたら、それこそ環境ホルモンを散布するような話なので、下水道に排水することが出来なくなります。また、ヒトの体内では多くの菌が拮抗しあっているので通常は病変しませんが、耐性のついた特定の菌が優位になったら、それこそ通常は起こりえない疾患をもたらし得ます。

そうすると、使えるものは「酸素」を操作する事が候補に上がるでしょう。先ず、嫌気性の菌でない限りは、水分の酸素濃度を著しく下げれば、死滅するか不活性化します。これだったら人体に対しての害はないですし、環境にも優しいです。しかも、嫌気性の細菌が人体に付着しても、風呂から上がれば必然的に大気中の酸素に触れた途端に死滅します。但し、これはあまりにコストが高くなりすぎるので、現実的ではありません。ならば、逆に酸素を重合させて消毒・滅菌すれば比較的コストが下げられます。しかし、オゾンにせよ過酸化水素にせよ、人体に害となる「活性酸素」を付加したということになるので、大量に使うことは考えられませんから限度があります。

そうなれば、浴場で出来る範囲で考えればろ過を行う事位になるでしょう。とはいえ、クリプトスポリジウムやレジオネラの大きさを考えれば、濾過膜の孔径は3μm程度が限度ですから、相当の水圧、適切なメンテナンス、ろ過材の交換が必要になるので、結構なコストになることを覚悟しなければなりません。

という具合に、単一の方法で感染防止を行うのは難しいので、いくつかの方法を組み合わせていくしか方法はありません。浴場主様もどうすれば良いのかを考えるだけで頭が痛くなりそうです。また、リスクを軽減するには、掘削深度を更に深くして、かつ源泉かけ流し、とゆう選択肢になるでしょう。ただ、温泉法に基いて考えれば、地方自治体で汲み上げても良い量を遵守する義務があるので、ろ過と循環を組み込まざるをえないのが実情です。

<温泉の汲み上げ量を制限する根拠>

(1)温泉という有限かつ公共性のある資源を確保し、枯渇することを避ける必要がある。
(2)地下水の過剰な汲み上げにより、建造物に被害をもたらす地盤沈下を防ぐ必要がある。

東京都区内の温泉銭湯の場合は完全な「源泉かけ流し」を行うことが難しく、温泉の湯船が2つ以上であれば、1つは源泉かけ流しは可能ですが、残りは源泉と循環のミックスを使うことが通例になっているようです。双方を源泉かけ流しにするのであれば、かなりの湯量の汲み上げ許可が下りたという証拠でもあります。

掘削の浅い温泉は、上述のようにクリプトスポリジウムの混入する可能性は(ごく僅かで)ありますが、そもそも西は秩父山麓から、東は日光連山から伝わってきた伏流水でもあるので、その温泉は有限という訳ではないケースも多いです。しかし、深度の深い温泉の大半は「有限な化石海水」となりますので汲み上げ量の制限も厳しいです。前者は、上流に汚染河川と地下水脈で繋がっていることがあり得るので、クリプトスポリジウム対策が必要になることもあります。後者については、そもそも(古代の海を起源とする)塩水なので、クリプトスポリジウムや他の菌類影響を殆ど受けない傾向にあります。

では、現在ではボーリング技術は進化をして、深度が深くても(1,000m超)比較的安価に掘れるようになったから、では更に深く掘りましょう、とは言えません。関東平野の南部には「南関東ガス田」というものがありまして、実は温泉はその層と同じ、もしくは隣接しているので、掘削中はもちろんのこと営業中も適切に、発生するメタンガスを処理する必要があります。この処理装置が杜撰(ずさん)であったり、場合によっては爆発事故を起こすこともあります。「そんなにガスが出るのなら、それを売って商売すればいい」などと考えた方は多かったのですが…正直言ってあまりガスの成分は良くありませんから、精製して製品化しても赤字になります。

もちろん、温泉銭湯に一般的な100m〜400mの範囲であれば、メタンガスが発生するようなことはありませんから、機械的には安全です。しかも上述の理由から、化石海水のように枯渇しません。確かに深く掘れば掘るほど、水温は上昇し、25℃以上になればどのような成分でも「温泉(この場合は低温泉)」とされます。寄生虫や病原体は著しく減っていますが、メタンガスは二酸化炭素よりも更に強力な「温室効果ガス」なので、排出するにも制限せざるを得ないこともあります(火気に関する法律では明確に定められているが、火気のないガスの放出に関しては詳細に法的に規制されていない)。

ある種のガンや関節リウマチで薬(主にメトトレキサート)を処方されている方は、免疫が落ちているので衛生面では慎重にならざるを得ませんが、せっかく効能には「関節リウマチ」と書かれているのに、その温泉に入浴をしないのはとても勿体無いです。疾患は「科学的処方」のみで治るものでなく、温泉のような「物理的・違空間的な療養※」も、とても大事な要素となります。

 

※水温・水圧・蒸気圧・マイナスイオン量・フェトンチット・何気ない他人との会話・全員が平等に全裸、な環境などを示します。

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