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 「温泉銭湯」と「クリプトスポリジウム」との関係は?

こんなに衛生環境が整っても、居なくならない寄生虫のお話。

たまたま、衛生関係の研究をしているところに、クリプトスポリジウムに関しての質問が来たのでお答えします。

多分、みなさんは「寄生虫」というと、回虫やサナダムシ、ぎょう虫のように長くて白い生物を想像すると思います。太平洋戦争を知っている方々は、みんな揃って駆虫剤を飲んだという思い出があるかもしれません。たしかに、戦後まもなくの頃は、回虫に寄生されている日本人は80%もいたそうです。人糞を使った有機肥料で育てた野菜から、寄生虫の卵を摂取して寄生されたというのが主な原因です(糞便感染)。現在は、そのような事はなく(そもそも人糞から肥料を作らない)、「クリプトスポリジウム」を除く寄生虫が体内に存在する日本人は0.1〜0.3%いればいい所です。

さて…「クリプトスポリジウム」とまた、舌を噛みそうな厄介な名前の寄生虫が存在します。ただ、このクリプトスポリジウムは、長細いミミズのような多細胞から構成されている虫とは違い、単細胞の「原虫」に区分される球状の生物(人間の消化管の中ではバナナのような形になる)です。似たような原虫には、有名な所だとマラリア原虫が存在しますが、マラリアはハマダラカという種類の蚊を仲介して感染(虫媒感染)し、40℃以上の熱を繰り返し、何も処置をしないと死に至ることもある恐ろしいものです。

ところが、このクリプトスポリジウムは免疫抑制剤(関節リウマチの治療薬や抗癌剤)を使用している人や、免疫不全症候群を患っている人でもなければ、6割程度の人が水のような下痢を繰り返し(1日10回以上にもなります)、いつのまにかケロッと治ってしまい、4割の人は何の症状も起こらない程度の寄生虫です。しかし、クリプトスポリジウムの何が怖いのかと言うと、この寄生虫は「水系感染」で、しかも塩素消毒も効果がありませんし、湯温程度では死滅しません。また、下痢を発症している人の1日の糞便の中には、オーシストと呼ばれる 頑丈な「カプセル」に包まれた原虫が10億個も存在するというのです。仮にそのうちのいくつかが口の中に入れば、クリプトスポリジウムに寄生されることになります。

さて、水系感染ということは、銭湯は大いに関わってきます。水道水は浄水場で高度処理を行っていますから、余程のことがないと感染源になる可能性は低いです。但し、外国では度々問題になりますし、日本でも1996年に埼玉県入間郡越生町で水道水を介した集団感染が発生し、町の人口の6割を超える8000人以上が罹患したという事例もあるので(ただあまり公にならなかったのは、同時期に出血性大腸菌「O-157」のほうで大騒ぎになっていたから、という理由がある)、対岸の火事…という訳にはいかないのです。しかも(対策のされていない)温泉銭湯は高度処理された水道水とは違い、そもそも効果のない塩素消毒のみでは感染源になりうる、とも言えます。例えば、人伝に運ばれてきたり、温泉の源泉が浅くて地下水の上流にあたる場所に汚濁した河川の水が混ざったり、下水道管が劣化して漏れていたりとか、も考えられます。確かに、熱処理をすれば万全ですが…あんなに大量なお湯を沸騰させてから冷ます、などということは不可能です。

では、温泉銭湯で寄生虫に感染されるか?と言えば、対策次第ではほぼ「絶対に安全」になります。

先ず、循環でもかけ流しでも同じですが、適切なろ過をすればクリプトスポリジウムは混入しません(レジオネラ対策の取られたフィルターであれば、ほぼ同サイズなので問題はない)し、もちろんそのスケールでは、黒湯の色の元になるフミン酸は通過しますから、成分や効能が落ちる、ということはありません。

また、おむつの取れていない子供は湯船に入れないのは当然の事ですし(ちゃんと管理するのは親の責任です)、そもそも体調の悪い人は入浴すべきではないので、人伝で感染する機会はそうそう存在しません(感染症法では、寄生虫として唯一「四種病原体」に定められています)。それ以前に、疑わしい人は、素直に病院に行って下さい<症状について>

また、そもそも人間は「免疫」という武器がありますので、初回感染時でも処置を行えば余程のことがなければ命に別状はありませんし、そういつまでも人体に寄生し続けられる原虫でもありません。もちろん、既得免疫とゆうのがありますから、2回目感染時には寄生を退けるか、もしくは殆ど症状が出ないのが普通です。

ただ、東京の温泉銭湯の泉質効能に「関節リウマチ」があり、そもそもリウマチを含む膠原病(こうげんびょう)は自己免疫疾患なので、病院で免疫抑制剤(例えばメトトレキサート)を処方されている場合もありますので、その場合は「無策」ではクリプトスポリジウム症が重症化することもありますので注意が必要です。

もっとも、当たり前の事といえば当たり前なのですが、帰宅時や食事の前に「手洗い」をすることで十分に感染予防になりますので、それが習慣付いている人ならば、仮に何らかの原因で免疫が落ちていたとしても問題にはなりません。

つまり、源泉の組み上げの浅い、もしくは循環を行っている温泉銭湯が適切なろ過を行っていて、なおかつ入浴客がちゃんと手洗いをしていれば、クリプトスポリジウム症になることはありませんので、のんびりとくつろいだひと時を堪能して下さいませ。

 

【参考文献】
藤田紘一郎「寄生虫のひみつ」 ISBN978-4-7973-4769-2
小島荘明「寄生虫の話」 ISBN978-4-12-102078-9

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